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ある外国人学者の死

 昨年1月の3連休のはじめに、大阪にある国立民族学博物館のインドネシア人客員研究員が、呼吸困難の発作等体の不調を訴えて、いくつかの病院に行きました。しかし、検査では異常が認められず、息苦しさのため入院を希望しましたが、本人が言うほど重症でもないし、コミュニケーションもとれないので入院受け入れはできないと言われました。連休中でもあり、詳しい検査も休み明けにということになり、帰宅しました。しかし、その後も嘔吐と息苦しさが続き、翌日の夜、自宅で意識不明で倒れて救急車で近くの大学病院に運ばれ、その2日後に脳幹こうそくによる急性腎不全で死亡しました。

 当ケースについて、いくつか問題点が考えられます。まず、休日中であり、病院が通常の診療日と同じ体制で臨めなかったということです。この方の病状に対して、担当医師が患者サイドから見て適切な判断を下せなかった、詳しい検査をすることができなかった、病院のスタッフの数が足りなかった等です。少なくとも救急指定の病院であるなら、患者に対してちゃんと対応できるはずと思いたいですが、日本の救急医療体制にまだ不十分な点があるのでしょうか。

 そして言葉の問題。入院を断られた理由のひとつに、「入院中のケアをするものが患者とコミュニケーションをとれないから」ということがありました。確かに言葉の問題は大きいのですが、救急のケースでは入院を拒む理由にすることはできないでしょう。もし、言葉の問題で入院させられないなら、どの病院に行けばよいかを指示すべきだと思われます。診察そのものに関しては、この方が滞在していた宿舎にいる、日本語の堪能なインドネシア人の大学講師が付き添ったので、本人の症状や希望はしっかり医師に伝わっていたはずです。また、この方はインドネシア語しか話せないというのではなく、英語、フランス語、ドイツ語を話すことができました。診察を受けた病院で、入院の受け入れができないなら、英語が通じる別の病院を紹介してほしいと頼んだらしいのですが、それもわからないと言われたそうです。

 次に考えられるのは、医師がしっかり患者の話に耳を傾けようとしたかということです。この患者さんは、息苦しいまま自宅で過ごすことに不安を感じて、何度も入院したいと訴えました。しかし、大丈夫、風邪だろうと言うばかりで、患者が苦しくて暴れたのに対しても、精神的ストレスが原因ととり精神安定剤をだした病院もありました。医師が、患者の訴えをじっくり聞く姿勢で臨まないと、元来コミュニケーションのとりにくい外国人患者が、不安と不信感を一層強く感じるようになるのも想像に難くありません。このケースについては、結局、呼吸困難などの症状と死亡との因果関係は明らかになりませんでした。もっと適切な医学的処置はできなかったのかという疑問に答えることは、今となっては難しいことです。ただ、この研究員の奥さんや、患者を病院に連れていった友人たちが、医師の対応に強い不信と不満を抱いたことは確かです。

 この方の死は、新聞やテレビ等のマスメディアで取り上げられました。報道後の反響から、同じことが自分の身に起こるかもしれないと感じた外国人が少なからずいたようです。また、この研究員が住んでいた宿舎にいる民族学博物館や大阪外国語大学の外国人教官たちは、急に病気になってもすぐに対応できるようにと、話し合いの場をもったり、勉強会を開いたりしたと聞いています。私たちも、このケースに接して、誰がどんなときに病気になっても、安心して診療を受けられる環境を整備していかねばならないと改めて思いました。それは、AMDA国際医療情報センターの設立の趣旨のひとつでもあるわけですし、このケースについて、休日でなければ私たちにできたことがあったのではないかと残念に思います。しかし民間のボランティア団体が、年中無休24時間体制で活動することは難しく、できることに限界があります。医療機関、行政、そしてわれわれのような民間の支援団体が連携しあって、状況を改善するために取り組んでいく必要性を感じています。(センター関西事務局Y)◆◆◆


(AMDA国際医療情報センター NEWSLETTER NO.31より)

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