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医療における異文化理解

 - センター関西設立5周年記念 - 
在日外国人医療ワークショップ 報告
 

 1993年12月5日にAMDA国際医療情報センターの2つ目の拠点として、大阪市浪速区にセンター関西を開設してから5年が経過しました。そこで5周年を記念して、医学・看護・福祉系学生対象「在日外国人医療ワークショップ〜医療と異文化理解」を、1998年11月15日(日)大阪国際交流センターにて開催しました。 このワークショップでは、これから医療の現場に立つことになる学生の方々に、日本内外で異なる文化や生活背景を持つ患者さんと接する際にどのように対応していけばいいか、自ら考えてもらう機会を作りたいと考えました。そこでまず、様々な立場で海外あるいは日本での医療に携わってきた講師、パネリストのお話を聞き、質疑応答を行いました。その後で参加者全員がグループに分かれ、異文化シュミレーションゲームを通して、違う価値観をわかってもらうこと、受け入れることの難しさを実際に体験したうえで、センター関西が受けた電話相談の事例について話し合いました。このグループワークでは、進行役である異文化コミュニケーショントレーナーの富岡美知子さんの絶妙なリードもあって、皆さん楽しみながらも“本当の異文化理解とは”という問いかけを自らにされていた様子でした。 主な対象である学生以外でも関心があれば参加可としましたので、社会人や医療に直接関係ない方もいらっしゃいました。そして、ワークショップで何かを掴んでかえったことが伺われる感想をたくさんいただきました。来年5月には、東京においても同様のワークショップを開催する予定です。国際医療においては、答えを簡単に出せない問題が数多くあります。このワークショップを通じて、それらの問題を理解し解決しようと真摯に考える人が増えることを心から願っています。 尚、この場を借りて、ワークショップ開催にあたり助成をいただきました日本財団、後援をいただきました大阪府、大阪市、大阪府医師会に心より御礼申し上げます。
 

buttonbutton 講演、質疑応答、参加者の感想 (講師、パネリストの方々の敬称は省略させていただきます)

吉田修(徳島県 芳越会ホウエツ病院外科医、元AMDA専属医)
アフリカでの経験から、医療援助のあり方というのは大変難しいと感じている。医者の少ないところに医者がいく、高価な医療機器を送るだけでは何も問題は解決しない。患者用のベッド、手術に使うガーゼ、ワクチンなど本当に必要なものが貧しいために不足している。水も少なく、あっても汚い水しかない。そのため衛生面で大きな問題となっているし、食物も足りなくなって栄養不良の人が多い。炭を燃料とするため森林がなくなる。教育も行き届かない。戦争の影響も甚大である。たかが数年日本から医師や看護婦が行って、何か援助をしたとしても社会は変わらない。援助したことが持続する方法を探さなければならない。社会をよくするためにいろんなアプローチを同時に行っていく必要がある。日本のお金のかかる医療をそのまま持っていくだけでは、まずうまくいかない。今、アフリカ人自身が自立するためにどうすべきかという方向にNGOの活動はシフトしてきている。

ロヒト・ポカレル
(神戸大学医学部国際交流センター、AMDAネパールメンバー)

ネパールでは15才以下の人口が全体の40%を占めるくらい子どもが多い。そして人口が年間2.1%の割合で増加している。しかし人口10万人に対して医者が8人、看護婦が14人、病院が0.7しかない。病院にしか医師はいないし、病院はもともと少ないけれど、あったとしても山がちな地形のためになかなか行けないこともある。また、病気になっても伝統的な治療やお祈りを先に行なってすぐに病院に行かないので、結局治療できないくらい悪くなってしまうことが多い。ネパールでは、結核、下痢、栄養不良、マラリアなどが死因の上位を占める。癌とかもあるが日本に比べると順位が低い。政府は医療に対してあまりお金を使わないし、政府が次々と変わるからシステム作りが進まない。保健医療をすすめるためのマネージメントができる人も少ない。NGOがネパールに病院を作っている。AMDAはダマクに病院を作って住民と隣国のブータンからきた難民の両方の診察をしているし、今度ブトワールというところにも子ども病院を作った。

池田ギオマール
(ブラジルにて助産婦資格、看護学修士号所得。現在奈良県ポルトガル語通訳員、ヘルスダイヤルプロジェクト相談員)

日本では機械を使った医療は発達しているが、患者と医師の間の「こころの会話」ができない。また、ブラジルでは、医師がこの治療をした方がいいとアドバイスしても、患者本人がその治療をしたくなかったら、医師は別の方法を考えなければならない。医師が患者の気持ちをどのくらい考えられるか、患者にどれくらい命令できるか、どこまで患者は医師のことを尊敬しなければならないか、ということがブラジルと日本では違う。糖尿病のブラジル人が妊娠したが、産みたいという本人の強い意志にも関わらず、日本の医師は中絶をすすめた。結局ブラジルに帰国して無事出産した事例にも、この違いがよく表れている。

木戸友幸(医療法人木戸医院副院長、元パリ-アメリカン病院医師)
ニューヨークのブルックリンで黒人の男の子に検査が必要なため腰椎穿刺をしようとしたら、実験に使われるのだと思いこんで母親が頑なに拒んだ事例、日本に来ていたアメリカ人女性が検査の結果良性の腫瘍がみつかったのを、説明が十分でなかったために癌だと思いパニックに陥った事例、オランダに住む日本人の男の子に対し、日本でするのと同じように風邪では抗生物質が処方されず親が不安がった事例などを通して、患者は慣れ親しんだ医療を好み、そうでない医療だと、例え医学的に間違っていない処置でも非常に不安に感じるということを知った。従って医療者は、患者が属する医療文化をよりよく知ろうと努力する必要がある。

中西泉(医療法人社団慶泉会町谷原病院院長、AMDA国際医療情報センター副所長)
宗教や習慣をよく理解したうえで医療を行うことが大事。特に体を扱うときは気をつけなければならない。また入院時には食事や日々の礼拝などへの配慮も必要。外国人患者に対しては、よく話を聞いて、言いたいことを全部言わせてしまう方がいい。確かに時間はかかるが、それで患者の満足が得られるのだし、後々面倒なことになることを考えるとその方が時間の節約になる。また、医療を行う際コストを念頭におくことが重要。途上国から来ている人たちにとって5万円でも1年分の収入以上になることがある。出来高払いではなく、できるだけ短い入院日数にする、払えない場合は分割にするなど、患者の負担を考えながらの医療の進め方が必要になってくる。また、外国人の定住化が進んできた今、社会保障のあり方も見直していかなくてはならない。最後にエイズ患者を受け入れることもあるが、インフォームドコンセント、プライバシーの問題、帰国への手続きなどネットワークを使ってのケアが大事になる。  

buttonbutton 質疑応答から(抜粋)

在日外国人患者受け入れについて─
日本では欧米に比べると過密な診療をしているので、時間がかかる外国人は歓迎されないだろう。日本の診療体制が外国人の診察をしづらくしている。

医療で求められる資質とは─
将来医療に携わるに当たって、本からの勉強ばかりでなく、実践で役立つ人材になることが大事。問題に直面したとき、何ができるか、どのような方法をとっていくかを、自分で考え判断できなければいけない。海外、特に開発途上国で医療を行うときはそのことが必要になってくる。また、ひとの気持ちを考えることも大事。日本では機械ばかりが発達して、会話を成り立たせることが難しい医師がいる。コミュニケーションをとることが大切になる。

医師と看護婦の関係─
日本では、医師の指示に対して看護婦がおかしいと思っても疑問を投げかけない。ブラジルでも、欧米でも医師と看護婦は対等の立場にあり、はっきり意見を言い合う。

アメリカの医療システム─
ほとんどの家庭でかかりつけの医師を持っている。このような医師は幅広いトレーニングを受けており、また入院が必要な場合は、その医師が契約している病院に行くことになる。しかしこのようなシステムは維持するのにお金がかかり、現在では保険会社がアメリカの医療を牛耳っている。理想的な医療は経済的な要因で維持するのが難しい。

ブラジルでよく用いられる避妊法と宗教の影響について─
ピルが一番ポピュラーで、コンドームが最下位。これは、ピルの入手のしやすさと教育が行き届いていないのが原因。IUD(避妊リング)は中絶と同じく、人間がいるのに育てられない状態にするものだと考えてカトリック教会は反対している。

海外医療援助が抱える問題─
まず現地がどのようなものかを見てきてほしい。実際に活動した人たちは「結局何も変えられなかった」という悩みを抱いている。援助するとき大事なのは持続すること(Sustainability)であり、例えば機械を送るだけで使い方が説明されなかったり修理されないのでは、一時の自己満足で終わってしまう。

海外に医療ボランティアに行くこと─
大学の医局人事からはずれることになり、将来のポストは保証されなくなるかもしれない。たくましく生きていけばどうにかなるだろうが。また、日本社会にはまだゆとりがなく、患者1人あたりの医療スタッフも少ないため、ボランティアに出にくい状況がある。まず学生の間に行くのがいいかもしれない。
 

buttonbutton 参加者の声から(抜粋)

・分かりやすいかたちで異文化への理解の重要性と難しさを知って本当によかった。

・講師の先生方のお話も、ディスカッションも、ゲーム形式のものもすべて刺激になった。海外医療についてもう少し突っ込んだお話を聞きたかった。また、在日外国人の方々にも直にお話を聞いてみたかった。

・在日外国人の人たちの不安を少し知る機会が得られた。専門分野以外の私もいろいろと感じることが多く、とても有意義だった。異文化への接触が自己の再確認、そして21世紀の大テーマであるひとつの地球での共存のKey Pointを探ることができる最大のチャンスだと思った。

・卒論で在日外国人を対象としたテーマをやっているので、とても参考になった。“異文化を理解しよう”とよく言うが、ゲームをやってみてそれがとても難しいことであるということがわかった。自分で“異文化だ”ということに気付くことがまず大切だし、それを本人や周りの人々に伝えて、そこからサポートする方法を考えていくことが大事だと思った。

・発展途上国への援助で何が必要で、何が不必要なのかが少しわかった。もっと様々な国の医療への取り組みを知りたい。

・国の抱える問題、国と国との違いがわかり、医療の難しさを実感した。日本の中でも共通した問題があると思う。日本と外国の医療の違いをもっと知りたい。

・異文化の人々への理解のきっかけというか始まりは、自分の価値観からではなく相手の価値観からみたら、どのようにみえるのかということ。これは看護の患者さんの理解と似ているなと思ったが、人間関係の延長になることだなと思う。

・自分を正しいと考えてしまう傾向を持っていることを知ることができた。
 

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