∽心の叫びに耳をかたむけて∽

 日本に住む外国人の滞在期間が長期化するにつれ、精神的疾病のケースが増加してきている。短期間であれば顕在化しなかったかもしれない問題が、異文化の狭間で深刻な事態を引き起こしかねない。

 本州中部の地方都市に暮らす男性Aさんの相談電話は、処方された薬の説明を求める内容から始まった。その説明が終わった後もなかなか電話を切りたがらないAさんの様子ににどうかしたのかなと思っていると、彼は自分の精神状態は鬱ではないかと心配しているという。最近雑誌で鬱についての記事を読み,そこに挙げられていた症状の1つ1つに自分が当てはまるというのだ。きっかけはよくわからないが、3年前に妻と離婚し、5才になる子どもは本国で暮らしていて現在は一人暮らし。症状がどんどん悪化してきており、先週まで何とか仕事もしていたが、働く気力がなく退職したとのこと。

 長引く電話の間に、Aさんの住む市の病院で母国語の通訳のいるところをさがし、同時に交流団体の電話相談窓口や市役所の窓口を確認。Aさんは自分の状況を比較的冷静に伝えてきていたので、専門家の診断を受けることを勧め、それと併せて母国語でいろいろ相談相手になってくれるところを紹介したことで、本人も納得して電話を終了した。

 別の県に住む独身女性Bさんからは、自殺したいという差し迫った電話がかかってきた。専門の機関に相談するよう勧めたが、既に相談したが解決しなかったといい、「誰か助けに来てほしい。死にたくない」と「もう自殺する」を繰り返す。少しでも落ち着かせようと相手の話をいろいろ聞きながら、私たちは病院の紹介は出来るが、そこまで行くことは出来ないと伝えると、錯乱した会話の合間にカウンセラーにかかりたいと言いだした。また電話してもらうこととし、緊急事態なので念のため、相手の名前、住所、電話番号を尋ねたところ、ファーストネームとおおまかな住所だけ教えてくれた。近辺の国際交流団体や病院へ問い合わせたところ、Bさんの母国語を話す通訳のいる市立病院が1つ見つかった。

 ところが再び電話をかけてきたBさんはさらに取り乱しており、「家族はいないから私が死んでも誰も悲しまない」と泣き続け、市立病院を紹介しても「遠すぎて行けない」「一人では家から出られない」と言うばかり。必死で慰め、必ず悲しむ人がいるからと言い続けているうちに、少し落ち着いてはきたが、一人では病院での手続きも困難な状態であろうと思われた。そこで今度は同行通訳を派遣してくれるところを探したが、今日の今日ではとあちこちで断られた。その中で地元の市役所の外国人相談窓口責任者が、「通訳が行けるかどうかはわからないけれど、誰かは行かせます」と引き受けてくれた。Bさんにこの窓口の電話番号を伝えて、とにかく話してみるように勧めて電話を終えた。

 その後市立病院の通訳からは「Bさんがまだ来ないがどうなったか?受付時間は終わってしまったが待っている」という電話をいただき、さらに市役所からは「今外国人女性から電話がかかってきているが同一人物か確認したい」という電話があり、ここでもBさんは混乱した会話を繰り返したようだったが、結局市役所内の通訳がBさんに同行して病院へ行ったということだった。

 Bさんの精神状態が非常に不安定であったため、一時はどうなることかと胃の痛くなるような思いをしたが、幸運にも受け入れ病院が見つかり、そこまで同行してくれる人も見つかって一同ホッとした。通常の対応を超えて手をさしのべてくださった皆様にもこの紙面を借りて、改めてお礼を申し上げます。(センター東京S)◆◆◆

(AMDA国際医療情報センター NEWSLETTER NO.51より)


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