「保健所と保健センター〜公的保健サービスの現状〜」

 センターには、日本で一生懸命子育てをしている外国の方からの小児予防接種や乳幼児健診の相談、またご自身の成人病やガンの検診に関する相談も多く、この場合は公的な保健関連施設やそのサービス内容をご紹介することがあります。みなさんは従来から聞き馴染みのある保健所と、1997年の地域保健法の全面施行により設置が進んだ保健センターの違いをどのくらいご存じでしょうか?今回はその役割の違いや業務内容、また、これら施設での外国の方々に対する対応についてご紹介したいと思います。

 まず、これら保健関連施設はいつ頃創設され、どんな変遷を辿ったのでしょうか?その始まりは1937年で、今から67年前のことです。結核撲滅と母子保健の向上のために旧保健所法が制定され、保健所が創設されました。日本第一号の保健所は、大阪市の小児保健所でした。その後、さまざまな時代を超え、1978年に厚生省が「国民健康づくり対策」を策定し、従来からの保健所と新しく設置される保健センターの整備・統廃合が推進され始めました。これは保健所の対人保健サービスを市町村へ移管することを意味します。そして、1999年に地域保健法の改定(1994年制定)が行われ、全国の保健所の統廃合がさらに加速しました。2000年には21世紀の国民健康づくり運動として、政府が「健康日本21」を制定し、健やかで心豊かに生活できる活力ある社会にするために、健康を増進し、発病を予防する一次予防に重点が置かれるようになりました。これら一連の流れにより、関西を例に挙げると、市内各区に一カ所ずつあった保健所を一カ所に統合し、各区の保健所は保健センターとなり、大阪市では1保健所24保健福祉センター体制が、また神戸市では1保健所9区保健福祉部(保健センター)体制がスタートしました。なお、東京都23特別区では、各区に保健所と保健センターの両方が設置されています。

 それでは、保健所と保健センターの違いをみてみましょう。少し堅い言い方をしますと、「地域保健法により、保健所は広域的・専門的な保健サービス(第二次予防)を、市町村保健センターは直接住民に身近な保健サービス(第一次予防)を原則としては無料で実施する」となっています。それぞれを比較してみると、まず運営自治体は、保健所は都道府県、地方自治法やその他の政令等で定める市又は特別区、保健センターは市町村です。では、その業務内容にはどんなものがあるのでしょうか?保健所が行う第二次予防には、こころの相談、感染症の相談や検査、飼い犬の登録や狂犬病予防・浮浪犬の捕獲、ねずみや害虫の駆除、飲料水の水質調査、食品営業許可の受付、食中毒の予防、医療機関の開設許可、医薬品や劇物の販売業の許可などが挙げられます。そして、保健センターが行う第一次予防には、乳幼児健診、小児予防接種、健康相談、成人病検診、がん検診、訪問指導、機能訓練教室など市町村住民への直接的なサービスが挙げられます。また、保健センターの代替施設として、保健福祉センター、健康センター、母子保健センター、農村健診センターなどもあります。

 上記の公的保健サービスを外国の方々はどのように利用しているのでしょうか?検診や予防接種などの詳細は、その地区に住んでいる方に対して日本語で書かれたハガキや広報紙で届けられることがほとんどです。私自身、自宅に届く広報誌をどの程度熱心に読んでいるかと訊かれると耳が痛いところです。外国の方々も本人宛のハガキなら何かのお知らせだと気づくかと思いますが、広報誌から必要とする情報を得ることは本当に大変でしょう。また、いざ日時が分かったとしても、当日のサポート体制はどうなのでしょうか。

 ある日、外国籍のお母さんからもうすぐ1歳6ヶ月になるお子さんのことで相談があり、「家の近くにある健康センター(保健センターの代替施設)に乳幼児健診や小児予防接種の日程や詳細を問い合わせてほしい」とのことでした。その方は日本語があまり上手ではないため、問診票の記入や保健医療関係者とのコミュニケーションが十分にとれないとのことでしたので、その旨を健康センターにお伝えしました。その際、健康センター側に通訳がいるかどうか、通訳がいない場合はセンターによる電話通訳が可能かどうか、また、センターで作成した多言語版の問診票を使用できるかどうかの3点をお訊きしました。これに対する健康センター側の回答は、まず通訳はいないため日本語が出来ないのであれば日本語を話す人を同伴してほしい、検査や予防接種を行う会場に電話を設置していないのでどうしても電話通訳したい場合は本人の携帯電話を使ってほしい、問診票は健康センターの所定のものでないと困るとのことでした。相談者にはこれらの3つの回答とともに、乳幼児健診の実施日時やお知らせのハガキが届く時期をお伝えしました。予防接種に関しては、二度目の電話でポリオとBCGは接種済みだと分かったため、それ以外の予防接種は自宅近くの小児科で接種することになりました。実は、このお母さんは健康センターの手違いでご自分の乳ガン検診のハガキが届かなかった経験をお持ちであったため、乳幼児健診のハガキが届く時期をとても気にしていらっしゃいました。なかなか届かない場合はもう一度問い合わせてほしいと言い残し、電話を切りました。後日、彼女のもとには無事にハガキが届き、お子さんは1歳6ヶ月健診を受けたとのことです。

 このケースを担当し、保健所や保健センターなど保健関連施設は公的保健サービスを提供する場でありながら、その利用方法は利用者側に大きく依存している状況を目の当たりにしました。ある市では通訳が乳幼児健診に参加することで外国人の乳幼児健診受診率が上がったという報告もあり、保健関連施設のサービス提供の方法には改善の余地がありそうです。電話による医療情報の提供、電話通訳、多言語ツールの作成を行う私たちは、今回述べたような公的保健サービスをもっと積極的に利用したいと思う外国の方々に対してどのようなサポートをしていけるのでしょうか。私たちも、保健所や保健センターなどに勤める保健医療関係者も、そして当事者である外国の方々もそれぞれの立場で考えていく必要がありそうです。(センター関西K)◆◆◆

(AMDA国際医療情報センター NEWSLETTER NO.49より)


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