SARSの波紋

アジア、カナダで猛威を振るっていた重症急性呼吸器症候群(SARS)の拡大がようやく収まりをみせ、6月末現在、感染指定地域は2ヶ所になった。しかしここに至るまでの約3ヶ月間、特にピーク時の5月は、通常より神経を使いながら相談対応する日々が続いた。日本中が試行錯誤の中、東京都作成の相談対応マニュアルやWHO、国立感染症センター、厚生労働省などのホームページを参考に、必要であれば専門機関に確認をとり対応に当たった。明らかにSARSを疑う症状が現れている人からの相談はなかったが、SARSが引き起こした波紋の大きさを相談を通じて知ることになった。

 4月に入るやいなや、センター東京にもSARSに関する相談が入り始め、6月末で33件の相談を受けた。その内訳は4月5件、5月21件、6月6件と5月に集中し、終息に向けて相談は減り始めた。相談者の国籍は9ヶ国に渡ったが、その内、中国人からの相談が11件、日本人からが10件であった。中国人からの相談は主に、中国現地の状況および中国に帰国して日本に再度入国する際に問題がないかといった問い合わせが多かった。

 4月に受けた相談内容は、SARSの症状について、予防法について知りたいなど知識を求めるものであったが、4月も後半にさしかかると、感染地域からの渡航者(クライアント、友人など)と接触する機会があるが、感染が不安であると訴えたり、そういった渡航者に対してすぐにSARSの検査をできるところを案内してほしいといった相談が増えてきた。相談内容の内訳は、渡航者との接触による感染不安6件、感染有無の検査、海外のSARS流行地域に関する情報がそれぞれ4件、SARSの症状についてが3件、予防方法について、マスクの入手方法について、SARSに感染していないという証明書の発行、日本政府の対応(隔離など)についてがそれぞれ2件、その他が11件であった。

 (ケース)4月の後半に外国人女性より、間もなくベトナムからのクライアントが成田空港に到着するが、SARSに感染していないか心配だ。到着後すぐに検査をしてほしいので、医療機関を案内してほしいという相談が入った。現時点で何も症状が出ていなければ、SARSに感染しているかどうかは診断できないこと、潜伏期間の10日以内に何か症状が出るなどしたら、すぐにこちらに電話をしてほしいと伝え相談を終了した。その3時間後に再度この女性より電話が入った。いろいろ考えた末なのだろうか、では10日後にSARSではないことを確認してもらいたので、成田市内にある病院を教えてほしいとのことであった。10日経って症状がなければ安心して良いのだが、どうやらこの女性はクライアントがSARS非感染者であることをきちんと確認するように、上司から言われていたようであった。最終的に成田市内の大きな医療機関を案内したが、上司命令を遂行するために切羽詰まった感があり、こちらの説明はなかなか受け入れてもらえず対応にも苦慮した。この他にも、これから台湾から友達が来日するが、すぐに血液検査をして結果を出してくれる医療機関を案内してほしいという相談もあった。一般の医療機関ではSARSの血液検査はできないこと、疑いのある患者さんが来院したら、保健所から担当者が来て血液を採取し、それをまた専門機関に回して検査をすることを説明。潜伏期間内に気になる症状があれば、すぐにこちらに電話してもらうこと、心配であれば、友達にマスクをしてもらうように伝えた。しかしクライアントや友達に対して検査をしてほしいと話すのは、さぞかし言いづらいことではないかと思ったと同時に、それほど慎重になるのであれば、なぜ渡航の延期を検討しなかったのかと不思議でもあった。

 前述のケースは渡航者を迎える側からの相談であったが、一方、シンガポールから帰国したばかりと言う外国人男性から次のような相談が入った。症状はないのだが、周囲の友達は10日間自宅にこもっていてほしいと言う。感染していないと証明できる検査があれば受けたいとのこと。前述と同様に検査はできないことを説明し理解してもらったが、SARSの流行は人間関係にもひびを入れてしまう可能性すらあるかも知れないと思うと、その影響力を感じずにはいられなかった。他にも、伝播地域から帰国した友達に会うのが不安で会っていないとか、伝播地域からのクライアントと会議をするが、感染の危険性があるのなら、会社を辞めることも辞さないという日本人からの電話もあった。また、熱があったのに隠していた人もいるのではないかと、疑いを持ち始めている相談者もいた。こうなると、一般的な知識を伝達すれば不安は解消されるわけではなく、疑心暗鬼になっている相談者に対応するには、かなり専門的な知識とそれを伝える技術が要求されるであろう。今回のような非常事態に外国語によりそれを実現するのは至難のことであると実感したが、それに少しでも近づけるようなサービスを提供していくことが、当センターに期待されていることなのかもしれない。(センター東京N)◆◆◆

(AMDA国際医療情報センター NEWSLETTER NO.45より)


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