紛争により犠牲となった子どもたちの報道を聞くたびに「いのちの格差」を考えさせられます。2011年から3年半続いているシリアの内戦において、国外避難者は300万人を超え(国連難民高等弁務官事務所2014.8.29発表)、その75%余が女性と子どもです。妊婦や乳幼児を抱えた女性の割合は高く、難民によって数十万人規模で人口が増加した近隣各国では、受入れてくれる病院が足りない上に、保険が使えないため医療費の重い負担、言葉の問題、また家族との離別により一人で不安を抱える妊産婦も多いといいます。


 妊娠・出産に関する電話相談は多いのですが、産科を紹介してほしいという依頼が最近も続きました。出産に臨んで言葉が通じる病院を希望する気持ちはよく分かります。何らかのリスクの可能性がある場合は、信頼関係を強めるために意思疎通が一層重要になります。先日の相談例では、不安が不信感を招いたのでしょうか、正産期の妊婦さんから転院の相談を受けました。病院との電話通訳を介して病院とのコミュニケーションをはかり、少しでも良い状態になってくれたらと願うばかりです。


しかし、出産可能な病院は少なく、時期がずれる日本人でさえ予約を取るのは容易ではありません。対応可能な産科病院は直ぐにはみつかりません。分娩費用や地理的な理由から結局、自国での出産を選択された例もありました。少子化対策と言いながら実体の伴わない現状に、このままでいいのだろうか、と考えてしまいます。


近年徐々に、総合的な保健医療としてのプライマリケアが地域医療の面から推進されるようになってきましたが、専門診療に主体が置かれている中で、日本にいる外国籍の方々にとって適切なヘルスケアサービスへのアクセスの問題は多々あります。すべての人が健康になること、基本的な健康管理と初期治療の重要性を説いた包括的プライマリ・ヘルス・ケアの定義を再認識する時機にあるのではないかと思います。2000年に設定された国連ミレニアム開発目標(MDGs)は、2015年までに達成する項目のうちグローバル・ヘルスを重要な課題として「乳幼児死亡率の削減」「妊産婦の健康状態の改善」「HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止」を目標に掲げており、最終年を見据えて振り返りが行われています。また、ポストMDGsにむけて「すべての人が、適切な健康増進、予防、治療に関する基礎的な保健医療サービスを受けられること」というユニバーサル・ヘルス・カバレッジの概念が強調されるようになってきました。


 ここ日本に於いても、法的、経済的背景や国籍を問わず誰でも医療の機会を得られること、とりわけ安心して出産できる環境の充実と母子保健について、少しでも向上するよう願わずにはいられません。(センター東京N)