センターの相談電話は病気の診断をするわけではない。相談員はとにかく相手の言う事に耳を傾ける。相手の話の中から本当に困っていることを探り出し、必要とする情報を案内するのが使命と皆心得ている。当然ながら、相談者の話が整理されていない時は大変だ。しかし主張が明快であってもスムーズにいくとは限らない。


昨年末、数日ごとにイライラした声で電話をかけてくる男性がいた。「皮膚にほくろのようなものがあるので診断してくれるところを探してほしい」という。皮膚科を案内したのだが、いくつ伝えても満足してもらえない。埒が明かないのでもう少し詳しく事情を聞こうとすると、「症状などいい。自分の指示通りに探せばいい」と怒り出してしまった。大学病院へ行ったこともあるようで、これはドクターショッピングなのか?とも思い始めた頃、「専門家を探してほしい」と言い出した。しかし今度は疲労感やだるさといった漠然とした症状を訴えたので、どの領域の専門医を探したらいいのか頭を抱えた。


インターネットでも探していたようで、「感染症科を受診したが何もわからなかった」などと言ってくる。そのドクターがエイズ治療で有名な医師だったため、そういう病気が心配なのだろうかと勘繰ってはみたものの、相談者の不機嫌さも募る一方で、本人が言いたいこと以外の情報入手は難しかった。 そんなことを繰り返しているうちに、「アレルギーを疑っている」と言い始めたので、アレルギー科をいくつか案内した。しかしまだ終わらなかった。「ダニとほこりのアレルギーと診断されたが、処方された薬が効かない。専門家を教えてくれと言ったではないか」とのこと。これまで案内したのは皆専門医だと説明し、すでに案内している他の医療機関に行ってみるように勧めた。


1月も半ばが過ぎた頃、丸1ヶ月ぶりに電話が入った。「カビの専門家を探してほしい」というものだった。「カビって、何のために調べたいのですか?」と問いかけると「以前受診したアレルギー科で受けた血液検査の項目には2つのカビしか入っていないが、カビの種類はもっといっぱいあるはずだ。日本中どこへでも行く」と言う。さらに「2年前引っ越しをしてから、発疹、目の充血、頭痛などに悩まされ、妻も肺炎などを起こしている」と言うのである。結論しか話そうとしない相談者が、ようやく心を開いてくれた瞬間だった。シックハウスアレルギーの外来を開いている大学病院を案内できた。


1ヶ月経つが、幸いその後の電話はまだない。相談電話の向こうには一人の人間が歩んできた人生が広がっている。当然マニュアルなどの想定通りに進むわけはない。相手の話に耳を傾け、どのようにアプローチしたら心の井戸に糸を垂らすことができるのか、知恵と経験を寄せ合いながら電話を受けている。 (センター東京 S)