発音になまりはあるものの、流暢な日本語でその人は相談電話をかけてきた。1ヶ月前に90歳を過ぎた親を呼び寄せたこと、10日程前に家でころんで怪我をしてしまい救急車で運ばれて入院したこと、入院してすぐに病院から100万円持ってくるように言われあちらこちらでお金を借りて持っていったこと、そしてさらに医療費がかかりそうなので、自分はご飯を食べることも出来ない、どこか助けてくれるところはないかといったことを必死でうったえてくる。自国の老人ホームに入っていた親は、ホームに医師が1人しかいないこともあり、心臓病や糖尿病の治療を受けずにいた。自分はもうずっと前から日本に住んでいて、他に面倒をみてくれる兄弟がいないため自分のそばで治療を受けさせたいと考えたのだと言う。

入院後、自分の社会保険の扶養家族に入れようと考えたが、「75歳以上は扶養家族には入れられない、後期高齢者医療制度に加入するように」と言われ、そちらで手続きを始めたところ、ビザが1年未満であったため、在留資格の変更手続き中とのこと。1年以上のビザが取れなければ、この後期高齢者医療制度には加入できない。2008年4月からこの制度が施行されたことにより、75歳を迎えて「後期高齢者」になると、国民健康保険やサラリーマンの健康保険などの医療制度に入りながら老人保健制度も利用していたこれまでの保険システムから、新たに「後期高齢者医療制度」に加入することになった。社会保険、国民保険のいずれの加入者も、75歳の誕生日当日からは後期高齢者医療制度に保険を移行しなければならない。

入管では早くビザが取れるように手続きしてくれると言われたが、取れるまでにどれくらい待てばよいのかとも質問を受ける。その時は入管に早く手続きを進めてほしいと何度か頼んでみるしかないと伝える事しか出来なかった。骨折しているが、今は手術ができる状態ではない。他にも病気がたくさんあるので、もうあまり長くはもたないかもしれないと言いながらも、1日も長く生きていてほしい気持ちと、しかし入院が長く続くと自分の生活が苦しいと言うジレンマが伝わってくる。

程なく、再度電話があった。病気治療のための1年の特別在留資格を得る事ができたので、すぐに後期高齢者医療制度の加入手続きを取ったというのだ。それを聞いてホッとする一方、すでにかかってしまった費用については、自費で支払わなければならないことや、年老いて怪我をしてしまった方の今後を思うと、せん無い事とはわかっているが、75歳未満であれば、或いは2年程前までであれば、社会保険の扶養家族として保険をもつ事が出来たのにという思いを消す事は出来なかった。