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トップ  >  NO.66 法と相談者の狭間で

 それはちょうど向精神薬「リタリン*」の不正処方が問題化した頃、つまり今年の一月、薬物依存問題を受け、この薬の流帳が規制されることとなった時点と重なる。まるで時を合わせるかのようにその相談は入り始めた。地方都市に住む女性で、自分はADD(注意欠陥障害)で、母国ではずっとリタリンを服用していた、という。初回の相談であったのでセンターとしては相談者の希望を優先する形で、しかしあくまでも「リタリンの処方は医師の判断による」という注意を添えて病院情報を伝えた。すると翌日も同一人物から同じ相談を受けた。昨日は土曜日のみ可能の情報だったのが今回は平日を希望している。条件的には厳しくなり、地理的にも彼女の住まいからは離れて行く。それでも彼女の希望を受入れるため、丹念な探索作業が続いた。通訳を探し、国内では数少ないADDの専門医を問い合せ、やっと複数の情報を用意するに至った。


 その後一週間もしないうちに彼女から連絡が入り、紹介された二カ所と他に外国人医師を訪ねて上京までしたという。しかし、彼女は代わりに処方された薬では副作用がひどく、もう医療機関は不要、自分で母国から薬を取り寄せたい、実は自分は双極性障害でどうしてもその薬が必要、どのような手続きが必要か教えてほしいとの希望に転じた。薬物の輸入に関してもっとも制限が厳しいのが向精神薬である。これをクリアするにはまず、厚生局の麻薬取締部への申請が必要になる。煩雑な手続きであることを説明するといったん電話は切れた。インターネット上では不正取引が横行しているようであったがもちろんそのような情報を伝えることはならない。  このあたりから担当者たちに疑念が浮かんで来た。彼女は詐病愁訴をしているのでは?依存症ではないだろうか? 相談者は言葉の帳じない異国で最後の砦としてセンターを頼っている。しかし二転三転する訴えに断定を避けながら思案していると30分後、果たして彼女からまた電話があった。この度はうつ症状を訴える。日本では認可されていない成分アンフェタミンを含む薬が要るのだという。こうなると提供できる情報はますます限られる。とりあえず、今まで教えた医療機関で医師に相談するように、としか回答できなかった。資料ではこの薬の適用は日中強い眠気に襲われる睡眠障害「ナルコプレシー」に限定してのみ処方されることはあえて伝えなかった。


 彼女の相談記録はコピーされ、通訳相談員への申し送りに収まり注意を喚起することとなったが、翌週、また電話が入り、今度はナルコプレシー(嗜眠症)だという。彼女も日本では何に対して処方されるか調べたのであろう。実際にナルコプレシーであれば脳波検査で判明する。問診のみで投薬されることはない。私たちは脳波検査装置を備えた睡眠障害専門医の情報を伝えた。以降、彼女からの電話は絶えた。なお、全て同一の相談者と判断できたのは彼女がその都度自ら名乗ったからである。こちらからはいかに疑念を持っても姓名をたずねることはない。センターは一方通行で相談者の希望を聞くわけであるが、相手によっては日本の法を顧みることなく自分の要求を通そうとすることがある。法の遵守と相談者の希望の尊重の間での微妙なバランスをとらねばならないのが私たちの仕事なのである。 (センター東京 K)


*メチルフェニデート(中枢神経刺激薬)を含む医薬品。劇薬に分類される。

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