AMDA国際医療情報センター
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アイデンティティを求める人々
 センターは言うまでもなく在日外国人を対象として母国語での対応を基本としているが、時として「外国語を話す日本人」あるいは「日本語を話す外国人」も相談者でありうる。

 通常、コール音に続いてAMDA国際医療情報センターを名乗ると、母国語で、あるいは「簡潔」な日本語で希望の言語を伝えてくるのであるが、「彼」は言語を決めかねているのかためらいがちに英語で話し始めた。流暢ではあったが「日本の方ですか?」の問いに今度は日本人とも外国人ともつかない日本語で肯定した。そして、声を顰め、自分が精神科の閉鎖病棟にいること、自分の意志に反して保護室に入れられたことを外部に訴えたいということで援助を求めているのであった。精神科の措置入院患者であることがすぐにわかった。彼は日本語で話すと病院のスタッフに内容がわかってしまうから英語で話す、という。

 措置入院は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第29条に定められている精神障害者の入院形態の1つで「ただちに入院させなければ、精神障害のために自身を傷つけ、または他人を害するおそれがある」と、2名の精神保健指定医の診察が一致した場合、都道府県知事または政令指定都市市長の命令により、精神科病院である指定病院に入院させることができる制度である。この患者もこの法によって入院したのであるが、単にこの患者に病識がないのか、あるいは本当に本人の主張するように不当に入院させられたのか、こちらは判断する術はない。私達の役割は「医療情報の提供」である。ゆえに、法を遵守し、かつ本人の人権が確保されるような情報の提供を求められている。この患者が入院に至った経緯はもちろん法律に則って行われたものであるにせよ、措置に対する不服の申し立てもまた、法によって保障されているのである。もちろん、外部との接触や連絡も自由である。したがって、センターとしては彼に所在地の役所に対して不服を申し立て、退院請求を出す権利があることを伝えると丁寧な感謝の言葉で電話を終えた。幼少時から外国を転々とし、母国語や自国の文化というバックボーンを欠いてしまい、いわゆる「デラシネ=根なし草」としてアイデンティティが希薄なことから精神のバランスを崩したのかもしれない。

 類似のケースとして日本に定住する外国人の親子間のギャップがあげられる。いわゆる「出稼ぎ」として来日し、そのまま定住ビザで日本で家庭を持ち、同国人の多い職場やエスニックコミュニティーで過ごす時間の長い親と、日本の学校に通い日本語を母国語として成長していく子供たち。その親と子の間に溝ができても親子のコミュニケーションが円滑にいかない。思春期に入り、自己形成に悩む子供をどう扱っていいかわからず、家族内で母国語が違うというハンディも加わって悩む親。そんなケースでは多文化に造詣の深いバイリンガルの医師・カウンセラーの存在は不可欠である。

 日本が単一民族、単一言語の国であるというのはもはや過去の話であることは小さなセンターの空間にあっても日々切実に感じる。反面、外国語や異文化を消化しきれず悩む人々の増えていることも多くの記録用紙に記されている。私たちの仕事もますます多様化していくが、こうした人々の期待に応えられる情報の中枢でありたい。(センター東京:K)

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