ニーズに応える

 出産を控えた留学中のベトナム人女性から相談電話を受けた。現在妊娠7ヶ月になるのだがこれから病院探しをしてほしいとのこと。自国から妊娠経過の紹介状は持参したという。妊娠後期に入ってから始めて受診を希望し新たに主治医を探す困難は熟知しているため、この点は幸いであった。しかし出産費用の支払いが困難なためどこか援助してくれる団体はないだろうか、また出産後は復学したいので保育園にすぐ入園可能か等心配していた。この留学生は4月に来日したばかりで、日本語があまりうまく話せない。これからの子育てや生活問題に不安を抱いているようだ。彼女の場合国保に加入しており、入院助産制度利用が可能だったので出産前に申請手続をすること、保育園への受入れについても相談するよう所管の区役所を案内し、もちろんAMDAの通訳サービスも併せて伝えた。この留学生のケースは日常業務では類似の相談をよく受けるため、通常のケ-ス対応の情報を提供することができた。

 しかし、複雑化する社会状況を反映してか今まで前例のなかったような内容が持ち込まれることも多くなってきた。先日はアメリカ人男性から英語の通じる泌尿器科の女性医師を強く希望する、遠くてもよいから女医を探してほしいとの相談があった。相談員が「探索の結果条件に合う女性医師が見つからないので男性医師ではどうでしょうか?」と伝えたところ、今度はどうしても見つからなければ自分は日本語は全く解さないが、日本語対応のみで構わないので、とにかく女性医師を紹介してほしい、日本には女性の泌尿器医は存在しないのか、との強い反発が返ってきた。訊けば、パートナーの女性等のためではなく、自身のためであるという。 女医にこだわる理由は何だろうか。イスラム・ヒンドゥ圏の女性のように宗教上・慣習上の制約があればセンターでは極力その主義信条を尊重してニーズに対応するが、この男性のような根拠不明の要望には当惑させられるばかりだ。

 外国人の心身の健康に関する問題は外国籍住民の増加に比例して増加してきている。日本で生活していく上では、医療問題だけでなく衣食住、教育など多種多様な問題が発生してくる。特に言葉の壁は深刻である。日本での生活は市区町村からのお知らせはもとより、特に子供がいれば近隣共同体への参加も必要であるが、日本語がわからなければかなりの困難があることは想像に難くない。ベトナム人女性の場合も出産後は保育園探しに始まり、育児と学業の両立の問題も出てくるだろう。私たちの相談電話も相手の状況と心情を敏感に受け止めながらアドバイスを提供しなければならない。そのためにはさまざまな分野の情報収集が必要だ。医療、法律、福祉等に精通し最新の情報をいち早くキャッチし迅速かつていねいに対応できるよう努めなければならない。むろん、前記のような把握し難い相談内容に頭を抱えることも往々にしてあるのだが、多くはセンターを頼みとして真剣に助力を求める相談者たちである。

 連日多くの外国人が日本の土を踏んでいる。その心中に去来するものが希望であれ、不安であれ、彼等がこの国で少しでも快適に暮らせるよう、また満足が得られるよう、これからもニーズに応えられる情報を収集・提供していきたい。それは日本が「美しい国」たらんとする努力にいささかでも 寄与することになるのではないだろうか。(センター東京:T)