相談対応の舞台裏

 電話相談は一対一のように思われるが、じつはチームワークが欠かせない。電話をとったスタッフが相談内容をメモに書きとり、残りの手の空いているスタッフは、メモを見ながら辞書、インターネット、病院リストなどを開き、対応を助ける。できるだけ電話の向こうの相談者をお待たせする時間を短くし、正確な対応をする為に手分けをする。よくある内容の問い合わせなら、電話に対応しているスタッフの目の前には他のスタッフによって次々に回答に必要な資料が並べられ、電話を保留してお待たせすることなく、必要な内容を淀みなく読み上げて行き、情報を提供する。難しい内容で、少し時間がかかる場合は、後でかけ直して頂くこともあるが、再電話までの時間内に、その場にいるスタッフ一丸となり情報を集める。優雅に見える白鳥が水面下で足をバタつかせているが如く、相談者に安心して頂くべく冷静に回答するスタッフの陰には、回答の為の資料の準備にオフィスの中を小走りに行き来する別のスタッフがいる。

 ある日、アクセントの強い難解な英語を話す女性から、不妊治療の医療機関で、「guizhifulingwan」を使ってくれるところを探しているという相談が入った。メモを取りながら注意深く聞き取りを続けるスタッフは、「guizhifulingwan」に首をひねっている。そこで、中国語担当が役に立った。「guizhifulingwan」とは、「桂枝伏苓丸」で、薬の名前であるということが判明した。あとは、英語の通じるクリニックの中で、この漢方薬を使っているところを探し、紹介することとなった。

 流暢な英語を話すヒンディー語が母語の男性の相談に対応していたときには肝心な内容がどうも理解してもらえなかった。そのため、英語担当スタッフは自らの専門言語であるヒンディー語で話しかけ、伝えたい内容をヒンディー語で再確認した。

 各国の習慣についても、あまり日本で知られていないことも多く、その国や習慣に詳しいスタッフがいれば、相談者の相談の意味や目的がはっきりするということもある。 医療情報の提供という範疇は広い。質問をボールに例えると、スタンバイしているときに、予想通り前から飛んでくるのだけではなく、いつどこから飛んでくるか分からないのもある。スタッフそれぞれが、色々な方向に目を向けていて、その方向からボールが来たら打ち返せるように準備しているという状態だ。次に備えて参考になるような内容を調べてみたりもするが、そのような相談は突然、意外な方向からやってくるもので予測しきれないことも多い。

 そしてようやく難しい相談の回答ができたとき、スタッフ一同ほっと肩の荷がおりる。しかし幸か不幸か、さらに新たな相談をされることもしばしばだ。それは、相談者は私たちへの信頼を厚くしてか、または質問しているうちにもっと聞きたいことがあったことを思い出すからだろうか。回答に対して十分に満足して、御礼を言われて「さようなら、お大事に」と言いかけたら、新たな質問が始まることもある。中には最初の質問に対する回答に対しても気もそぞろで、次の質問に早く移りたい様子が見られるときもある。後からの相談のほうが相談者の一番知りたいことであって、最初の質問は案外二の次で、ややもするとどうでも良かったりもするのだ。

 前述の、「桂枝伏苓丸」も後者のパターンとなった。相談者は、センターの回答を聞いて、メモを取るのも早々に切り上げ、それでは夫の不妊の治療について相談したい、と新しい相談が始まった。自分が「桂枝伏苓丸」を服用するのはまあ置いといて、それよりも夫の精巣結索の治療ができる所があれば、そちらを優先したい。漢方の処方も別に行わなくても良いという。周りのスタッフも、電話を受けたスタッフの応対を聞き、書き留められていくメモを見て、相談が最初の回答で終わらず想定外の方向に発展していくのに気づく。対応を見守りながら、再び希望に添った医療機関情報を手分けして準備し、相談者に回答すると、明日にでも行ってみると言って電話は切れた。

 多種多様な質問を受けていると、色々な文化を持つ人々が日本に長期的に生活しており、それぞれの文化が接触し合い、融合し合っていて、その中に私たちもいるということが実感できる。 いつも完璧な対応ができる訳ではないが、私たちは今あるマンパワーで、それぞれの知識と情熱を合わせて、よりよい対応に努めている。(センター関西 O) ◆◆◆