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異国での出産

少子化が話題にのぼることが多い昨今であるが、当センターには外国人から出産に関する相談が数多く寄せられる。妊娠しているかどうかを検査したい、母国語で出産まで出来るところを教えてほしい、出来れば女医さんに診てもらいたい、立体画像の超音波で健診が受けたい、無痛分娩あるいは水中出産がしたい、出産費用はどれくらい必要なのか・・・等々相談内容は様々である。そんな相談を毎日のように受けていると日本の少子化の歯止めに貢献しているのは案外こうした外国人が多いのではないかとさえ思えてくる。

そんなある日、臨月を迎えた女性から相談電話が入った。数ヶ月前から日本で働き始めた夫の元に身重の彼女が訪れたのは、まだ出産まで少し時間があった時期と思われる。その時、彼女は幼い第1子を伴い観光ビザで入国。その時点の予定では、本国に帰国し第2子を出産するつもりだったという。そして、出産後新生児も一緒に連れ、夫の待つ日本での新しい生活を考えていたと話し始めた。・・・がしかし、その「予定の変更」を余儀なくされる事態が起きてしまったのだ。本国へ戻る前にまだ申請をしていなかった家族滞在ビザを申請することにしたのである。入国管理局に問い合わせたところ、就労ビザを持つ外国人の配偶者と子ならば2週間程度で出来ると言われ、それならばと申請手続きをした。ところがおりしも季節は春。入管がビザの申請・更新手続きで一番込み合う時期であり、そうこうしているうちに2週間が過ぎてもビザを出してもらえなかった。更にゴールデンウィークが重なり、とうとう臨月に入ってしまい飛行機に搭乗し帰国・出産出来なくなってしまったという。この時もセンターに電話を入れる前に入管に連絡したが、まだ最低一週間はかかるという返事だったとのこと。ビザがないのだから外国人登録をすることも断られ国民健康保険にも加入出来ないばかりか、まだ出産するところさえ決まっていないのだ。臨月といえば普通に考えればいつ出産が始まってもよいようにほぼ準備が整い、気持ちも安定している時である。しかしながら彼女の場合は、日本語が出来ない上にセンターに電話を入れてきた時点で既にお腹に痛みがあるという。不安は募るばかりである。日本での出産を考えていなかった為出産費用も心配している。本国とでは金額も違う。電話の後ろからは幼子の泣き声も始終聞こえている状況だった。

センターでは、まずもう一度入管に電話で事情を詳しく話し「いつビザが確実にもらえるか」を確認するよう本人に伝えた。その一方で、センターからは彼女の夫が外国人登録している役所の窓口に電話を入れ、本人達が出向く前に概要を説明しておくことにした。翌日は休日である。いつ出産ということになるか分からないので、とにかくその日のうちに彼女と第1子の外国人登録をさせてもらえないかとお願いしてみた。このやりとりの結論が出るまで多少時間はかかったが、幸いにも人道的配慮をしていただけることになった。その日の夕方、閉所間際に外国人登録申請と母子手帳(無料健診券が添付されたもの)の受理、更に入院助産制度*の申請をさせてもらえることになった。相談に耳を傾け応じてくださった役所の方々には心からお礼を申し上げたいと思う。更に入管からも数日中にビザが受け取れる事になった。

最後の難関は受け入れてくれる医療機関を探すことだった。既に報道されているように産科医の不足と共にお産の出来る医療機関も少なくなっている。その上、臨月までの状況がよく解らない外国人妊産婦なら尚更受け入れが厳しい。時間がどんどん過ぎていくような感じがした。そして、とりあえず診察をしてくれる病院の情報にやっと辿り着くことが出来た。場所こそ多少離れてはいるが、彼女の母国語で対応できる医師もいる。本当に長い一日であり、安堵した瞬間だった。更に週明けにはその病院で出産の受入可能という結論をもらうことが出来たのである。あれから数ヶ月・・・・きっと今頃は・・・家族がひとり増え賑やかに日本での生活をスタートさせたに違いない。

あえて言葉も風習も違う異国での出産は、「勇気ある選択」である。そして、どんな状況であれ新たな生命の誕生には、明るい希望があってほしい。センター業務の中で出来るサポートは確かに限られている。それでも前向きに少しでも役に立つ情報を届けられるようにと私達は日々考えている。・・・それは、もうまもなく訪れる「隣人は外国人」という時代への橋渡しにきっと繋がると思う。(センター東京K) ◆◆◆

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