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日本語が話せるという自負の尊重と医療通訳

 腕を骨折して入院していたという外国人男性からの電話が入った。彼は担当の医師の治療方法についての疑問や不安感を述べた。自分はまだ骨折した箇所の痛みが残っているのに、医師は治癒したと言う。「両腕を伸ばして比べると、骨折した側の腕の方が短くなったがこの治療は正しいのか」とも聞いてくる。担当医に相談したかどうかを尋ねると、担当医はいい人で、「大丈夫、良くなった」というので、何も質問していないと言う。気を使わず、まずは担当医に不安に思っている点について確認してみるようにいうと、「分かった」と答え電話は切れた。

 それから数日後、同じ男性からまた電話が入った。痛みが激しくなったので、別の病院に行ったら、骨折の治療をやり直すと言われた。今まで安静にして風呂にも入らなかった。どうしてこんな基本的な治療がうまくいかずやり直しになるのか、はじめの医師の医療ミスに違いない、と憤っている様子。聞くと、最初の担当医には結局何も話さず、黙って別の病院に移り、検査もはじめから全てやり直したとのこと。最初の病院の担当医を訴えたい、との気持ちを強く持っており、医療ミスかどうかはこちらでは判断出来ないと答えても、治療のやり直しは医療ミスが起らなければ有り得ない、の一点張り。訴える為に、医療に詳しい弁護士を紹介してほしいという依頼だったので、訴訟になるかどうか判断してもらえる弁護士協会窓口や市役所法律相談の情報を準備して再電話を待っていたが、電話はなかった。

 医療ミスである事に同意をしてほしいようで、それに応えられなかったセンターの対応に対して、相談しても無駄、と思われたのかもしれない。それとも、電話を切ってしばらく考えたり家族と話し合ったりして、少し気持ちが落ち着いたのだろうか。

 この相談者の場合、医師に対してかなりの遠慮があり、色々質問をして医師の気分を害するのではないかと心配しているようだった。質問を全くせず、想像で不安がふくれあがり、病院を替えたところで再治療を勧められた事によって、不安が第一の医師への決定的な不信に変わったのか。

 もう一度、どちらかの医師に通訳を介して詳しく聞いてはどうか、とアドバイスしたとき、彼はきっぱりと日本語で言った。「私の日本語は問題ありません。通訳は大丈夫です。」そこからしばらくは日本語で会話したが、日本語で自分の意志を伝えるのにはとても苦労していたし、こちらの日本語も聞き取るには何度も言い換えて何とか分かるという状態だった。医師の前では質問せず、「はいはい」と言っている為に、医師が彼の日本語は問題ないと考えても無理はない。そして日本語ネイティブに話すように説明されていたら、言葉の断片だけが残って、後は彼の想像で医師の説明からはかけ離れたものになって行ったかもしれない。

 長らく日本に住んでいて、日本語も上手くなった。そういうプライドを尊重したい。努力して日本語を話しているのに、日本語ではなく母国語で返されたら、がっかりするかもしれない。でも、医師の話が分からなければ、日本語が話せるという自負を尊重しながらも、通訳を利用することを勧めるしかない。誤解で不信感を深める前に。医師と患者との会話は、日本語上達の為の会話のレッスンではなく、今すぐ完璧に理解しなければならないものだからだ。(センター関西 O ) ◆◆◆


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