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若い命の代償

 センターには、毎日医療に限らず様々な問題で相談電話がかかってくる。在留資格に関すること、医療費の支払い、保険制度や生活相談に至るまで実に多岐にわたる。そうした電話の内容を聞いていると、在日外国人が日本で置かれている立場の難しさ、危うさを感じることも少なくない。

 このケースはある梅雨空の日のお昼近くに、当事者の親類からの電話で始まった。オーバーステイの外国人が仕事中の事故で死亡。20歳台前半の若い命を失ったのだ。死亡した若者は父親と共に来日して数ヶ月経ったばかりで、父親はショックのあまり言葉を失っているという。その時点では既に通訳を介して警察の現場検証も行われたようだった。また、会社からはある程度の補償金の額が提示されているが、母国を出国する為にかなりの借金をしてきたとも言っていた。相談は、労働者災害補償保険(以下労災)による給付についてと会社からの補償金についての妥当性を問うものだった。勿論、そこにはオーバーステイであるという状況がどう扱われるかが一番心配な点だった。

 まずは、大使館の緊急相談窓口に直ぐに電話をするように伝え、コールバックを午後にもらうことにした。その一方で大使館側とも連絡をとった。大使館員によると、既に警察から死亡の連絡はきているが、個人情報保護法により名前等はまだ解からないので関係者からの電話待ちをしている状態にあった。また、会社からの補償金について伝えると、ある程度の補償金をもらって労災扱いにしない旨の念書にサインをしてしまうことが危惧されるということだった。

 センターではその間に管轄の労働基準監督署にも問い合わせを試みた。

 その際確認した内容は、次のようなものである。


  1. 外国人に対する労災の適用は、不法就労であるか否かを問わずに適用される。雇用の形態(正社員・パートタイマー・アルバイト・日雇い・臨時職など)は問わず、労働者は雇用主と雇用関係が成立した時点から自動的にこの制度に加入している。労災保険への加入は強制加入が定められているので、雇用者側が保険に加入していないということも当然ありえない。
  2. 不法労働者が強制送還を恐れて申請しないという点については、労働基準監督署に通報義務はないという答えだった。ただし、入管法によると不法就労をさせた雇用者には定められた罰則(懲役または罰金に処せられる)が適用される。
  3. 肝心の遺族補償給付については、父親の年齢によって受けられる給付が違うにせよ遺族補償一時金あるいは遺族補償年金のほか、埋葬料、遺族特別支給金が支給される可能性があることが解かった。これはあくまで本人(この場合は、本人と生計を同じくしていた父親)が直接労働基準監督署に申請し、調査の上で判断が下る。外国人の場合、雇用者側で手助けをするよう指示されている。


 また、労働基準監督署に出向き相談するにせよ言葉の壁がある。都内やいくつかの県では外国人の為の通訳や相談員がいる労働基準監督署もあるが、今回の管轄の労働基準局ではこの当事者の言語について対応が出来ないということであった。通訳として同行してくださるボランティアも必要になる訳だ。言語によってはそれすらも難しくなるが、幸いこのケースの地域では県の国際交流協会が協力してくれることになった。後は、代理人からのコールバックを待つばかりになった。もし、電話がかかってこなかったら・・最初の電話の時に特別に連絡先を聞いておけばよかった等様々な考えがよぎった。この電話を待つ間に手遅れにならないかととても長い時間に感じたのは言うまでも無い。

 そして、午後一時過ぎにそのコールバックの電話は鳴った。代理人は既に大使館には連絡をしたが、その時点では緊急相談窓口担当者が出張中ということでまだ詳しく聞いていないと言っていた。その為、補償金と労災保険による給付について大まかな説明をし、実際の手続きは大使館労働担当と会社側の担当者に相談するよう伝えた。また、通訳と必要とする場合についても付け加えた。代理人は涙声でありがとうと言いその電話は切れた。電話をもらったその日が告別式の日だった。曇り空から今にも涙雨が落ちてきそうだった。


 あれから数ヶ月、暑い夏が終わり、秋が訪れた。通常はしないが特例として大使館に事後の確認の連絡を入れることにした。その結果、父親と連絡が取れ、現在は会社側の社会保険労務士を通じて手続きが行われている最中であるという答えが返ってきた。例え補償金や給付金が支給されたにしても若い命が失われたという代償はあまりにも大きい。日本では3Kと言われるきつい仕事の労働人口が不足する中、こんな風に経済大国日本の「はかない神話」を夢見て、ブローカーに借金をし日本に入国してくる外国人は後を絶たない。けれども、夢との落差は大きく厳しい現実が待っている。そんな現実をまざまざと物語るようなケースだった。(センター東京 O)◆◆◆


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