AMDA国際医療情報センター
supporter
login
トップ  >  NO.52 彼方から望みを託して
彼方から望みを託して

 センターには日本全国からはもとより、ときおり海外からの問い合わせや相談も飛び込んでくる。対応している最中にそれとわかり、いっそう真剣な気持ちにさせられることが多い。インターネットの発達によって世界はますます狭くなったとはいえ、地理的には遠い海外からわざわざ寄せられる相談は当然ながら深刻なケースとなる。

 春めいてきた3月初めの夕刻、数ヶ月前ジストロフィーと診断された外国人の女性から電話が入った。対応するうち国際電話とわかったが、現地との時差は約17時間、ということはこの相談者は日本時間を考えて夜中にかけているのである。

 ジストロフィーというと一般には筋ジストロフィーがよく知られているが、彼女の場合は正式には反射性交感神経性ジストロフィー(reflex sympathetic distrophy=RSD)という病名であった。難病であることには変わりない。彼女の母国では150万人以上の患者がいる。この病気は診断が難しい上、激しい痛みを伴う。彼女は自国内では治験段階にあるノイロトロピン(neurotropin) という薬を使って治療してくれる病院を日本で探してほしいという。自国内で正式な使用許可がでるのを待っていられないとのこと。

 まずはノイロトロピンについて調べてみると、日本では強い鎮痛作用を利用して使用されている薬であることがわかった。さらに薬事情報をあたってみると現地では国立の研究機関がホームページを通じて臨床試験の被験者を募集したということだが、被験者となる条件にあてはまらないため、すでに認可のおりている日本での治療を考えているらしい事情が察せられた。

 さっそく、*創薬元の製薬会社と東京の医療機関にあたってみることになった。製造元によるとこの薬は現在は日本と中国で販売されており、外科、整形外科、麻酔科を中心に疼痛疾患の治療に用いられている。しかし、専門医のいる病院に問い合わせてみると日本では認可されているものの主として鎮痛剤として用いられており、この種のジストロフィーに対しての大きな効能は確認されていないという。RSD患者への投与と効果については多くの病院の回答は懐疑的であった。

 その中で、当然ながら患者の状態にもよるが、たっての希望なら投与を考える、という専門医が二人見つかった。9日後再電話の際、このことを伝えると彼女はことのほか喜び、その必死の心情がこちらにも感じられた。続いて日本の病院についての具体的な質問(外来と入院があるかどうか、医師は電話相談を受けてくれるか、予約が必要か、等)があった。来日を考えているようである。医師にはまず、メールかファクスで病歴や症状を連絡のこと、と伝えた。

 4日後、いよいよ来日が近づいた、という電話が入った。自分の国では未だ認可がおりず非常に苦しんできたが日本でなら投与してもらえる病院があると知り、もう待っていられません、渡航します、という。医師と連絡がついたらしい。先方の問い合わせに沿って行き先の病院の設備や規模について概要を伝え、今後もし何か困難があればいつでもセンターに電話して下さい、と伝えて励ました。

 あれから1ヶ月になるがこの女性はもう日本に来られただろうか。薬の効能については専門家の意見が分かれてはいたが海の向こうから最後の希望を日本での治療に託す患者さんと彼女に付き添ってくるご主人にとって満足のいく治療が受けられることを願うばかりである。海外からも日本の医療情報を求める人々が存在する状況に、この業務の意義をあらためて自覚した次第である。 (センター東京K) ◆◆◆

*創薬=創造的な新薬を開発すること

プリンタ用画面
友達に伝える
前
NO.52 傾聴する仕事 ~‘聞く’と‘聴く’の違い~
カテゴリートップ
NEWSLETTER 案内
次
NO.53