傾聴する仕事 ~‘聞く’と‘聴く’の違い~

 皆さんは人と話をするとき、話をする方が好きですか、それとも話を聞く方が好きですか。先日読んだ本によると、人間は本来、話を聞くよりも話をする方が好きで、話すことの満足度は聞くことの満足度の何倍も高いのだそうです。それを知ってか知らずか、ギリシャの哲学者ソクラテスは、「神は私どもに2つの耳と1つの口を与え給うた。それ故、私どもはより多くを聴き、喋ることを少なくする必要がある」という言葉を残しているとのことでした。私も人と話をすることが好きですが、相手の話を聞くよりもついつい自分が話している方が多いのではないかとわが身を振り返っています。

 ‘きく’という言葉にはいくつかの意味(あるいは漢字)がありますが、‘聞く’と‘聴く’の違いは何でしょう。一般的に、‘聞く(hear)’は耳で音や声を感じ取ることを意味し、‘聴く(listen)’は耳を傾け、注意して聞き取ることを意味します。私たちがセンターの電話相談で行っている行為は後者の‘聴く(listen)’ことです。私たちは相談者の声を落ち着いて一生懸命に聴き、その内容をきちんと受け止めるように努力しています。このような場合、私たちに必要なのは傾聴の姿勢ではないでしょうか。傾聴とは相手の話をそのまま全て受け止めて聴くことだけでなく、相手がより多くのことを話せるように、また話している間に自分なりに悩みや不安の整理が付くように助けることです。この時、相手を否定したり、自分の意見を押し付けたりせず、自分の持つ価値観で相手を判断しないようにしなければなりません。多言語での電話に対応する時に語学力は不可欠なものですが、それと同時に私たちは相談者の話に傾聴する姿勢を忘れてはいけません。

 ある日、センター関西に英語圏出身の女性(以下、Aさん)から電話がありました。来日してからずっとプライベート保険に入っているが、転職するのを機に国民健康保険(以下、国保)に加入したいとのことでした。国保に加入するには1年以上の在留資格と外国人登録が必要であることを説明すると、その両方の条件を満たしているとAさんは答えました。ここまでなら日常的に行われる相談業務と何ら変わりはありません。そのすぐ後でした、受話器の向こうから何の曲かも分からない鼻歌が聞こえ始めたのは。対応して下さっている通訳ボランティアさんの脇にいた私には最初何が起こっているのか分かりませんでした。きょとんとした顔つきで、「何やろ、これは。ちょっと聞いてみて」と言われて初めてAさんが鼻歌を歌っていることに気づきました。こんなとき、みなさんだったらどうしますか。その声に聞き入りますか、いたずらだと思って電話を切ってしまったりしませんか。びっくり顔の私の横でボランティアさんが慌てることなく冷静に「もしもし、もしもし・・・」と何度か繰り返したところ、Aさんは何事もなかったかのように鼻歌をやめてもう一度話し始めました。「どこで国保の手続きをすればよいか」と。そしてまたすぐに鼻歌が始まりました。これは彼女の個性なのか、ちょっとしたいたずら心か、それとも精神的に調子が悪いのか・・・。鼻歌が途切れるのを待ち、手続きの方法を説明するとAさんは礼を言って電話を切りました。一度始まると1分くらい続くAさんの鼻歌に最初はびっくりして戸惑いはしたものの、彼女のペースに合わせながら求められている情報を伝えることができ、ホッとしました。センターには毎日さまざまな方から電話がかかってきます。正直なところ、自分では想像もつかないお話を聴くこともあります。そんなとき、素の自分を傾聴モードへと切り替え、相談者の声に耳を傾けます。相談者が日本で少しでも安心して生活していけるように。(センター関西 Y) ◆◆◆