留学生のメンタルヘルスケアと言葉の壁

 我が国は昭和58年にいわゆる「留学生受入れ10万人計画」を策定し,留学生の受入れの拡大と総合的な留学生政策の実施に取り組んできました。文部科学省によると、我が国の大学等で学ぶ留学生(「出入国管理及び難民認定法」別表第1に定める「留学」の在留資格を有し、教育施設において教育を受ける外国人学生)の数は,平成15年5月1日現在109,508人(過去最高)に達し、彼らの出身国(地域)上位3か国は中国(70,814人)、 韓国(15,871人)、台湾(4,235人)となっています。同省中央教育審議会は留学生の数の拡大はそれ自体望ましいとしながらも,安易な数の拡大が招きかねない大学等の受入れ体制,教育研究内容,学生等の質的低下についても指摘しています。また、このような状況では留学生の中には文化と適応の問題に悩む人も少なくないと考えられます。

 AMDA国際医療情報センター関西にも、外国人の方々からメンタルヘルスに関する相談が寄せられています。このうち留学生や外国人研修生・専門学校生に関する相談の大半は、本人よりも彼らの受け入れ機関や公的機関からであり、2001年度は0件だった彼らに関する相談件数は、2002年度には9件(中国語3件、英語2件、韓国語・タガログ語・ベトナム語・ハンガリー語各1件)と増加しました。なお、本年度12月までは3件(中国語2件、アラビア語1件)であり、今後の動向に注目したいと思います。相談内容としては、日本に来て精神的に疲れている彼らのために外国語でメンタルヘルスケアが受けられるところを紹介して欲しいというものが中心でした。しかし、当センターに英語が話せる医師やカウンセラーに関する情報はあっても、その他の言語となると同じようにはいきません。様々な方法で希望言語による対応が可能な受け入れ先を探したものの、その受け入れ先が極端に限られているために相談者が事前に持っていた情報と重複したり、希望言語を優先したためメンタルケアが専門ではないところを紹介せざるを得ない状況が発生しました。精神的に疲れている時こそ、相談者は言葉の問題を忘れ、自分が思っていることを思う存分に話し、相談された側はその内容を十分理解し適切な対応を取れる環境が何よりも望まれます。母国を離れ辛い思いをしている彼らのことを考えると最善の対応が取れない現在の状況は本当に残念ですし、これらケースを通じて英語以外の言語を希望する方に対する対応の難しさを実感しました。今後これらの問題点を改善していく上で、カウンセリングや精神科等の情報はもちろんのこと、さらには各国出身者のコミュニティーに関する情報の充実も重要になってくると考えられます。また、予防という観点から考えると、留学生やその受け入れ先の担当者に対するメンタルヘルスをテーマとしたセミナー・研修の実施も有効でしょう。

 政府レベルでは、渡日前から帰国後に至る体系的な留学生受入れ支援体制の充実を図るため、平成16年4月に独立行政法人日本学生支援機構が設立されます。同機構では留学生に対する奨学金の支給,国費留学生に対する日本語予備教育,留学生宿舎に関する業務等が実施されるそうです。このように増加する留学生に対する支援体制は徐々に整備されつつありますが、留学生が日本での生活に早く馴染み充実した毎日を送るためには日本の社会や文化に対する理解が必須であり、このためには日本人学生や地域社会との交流が重要であると考えられます。政府レベルの努力に留まらず、留学生受け入れ機関自体が責任をもち留学生の健全な生活をきちんとサポートしていく体制をより積極的に整えなければ、今回取り上げたようなケースは今後も起こりうると思われます。また、当センターもこのような内容の相談があった場合に備え、情報・相談スキルの向上を図っていく必要があります。(センター関西K)◆◆◆