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大阪府協働「在住外国人のメンタルヘルスにかかるプロジェクト」報告

センター関西事務局主任横山雅子

 昨今、NPOはそのアイデア、行動力、きめ細やかな対応で、社会のニーズに合った効果的な活動をしてきている。従来、行政が住民への公的サービスを行ってきたわけだが、そこにこのようなNPOの特長を活用していこうとする流れがでてきている。大阪府でも平成12年度より、NPOによる提案事業を公募し、審査のうえ事業を選定し、NPOに委託する形でその事業を執行している。我々は2年目となる平成13年度「NPOとの協働推進プロジェクト公募事業」(実施期間:H13.10~H14.2)に表記プロジェクトを提案し受託することになった。  在日外国人の医療問題はいくつかの領域で顕著で、すでに我々が取り組んできたHIV/AIDSや母子保健のほかに、精神保健でも課題があると考え、学会で電話相談に表れる精神的問題を取り上げ発表したこともあった。しかし、精神保健は他の領域以上に言葉の問題、文化・価値観の違いが大きく影響する。外国人の抱える心の問題に我々がどこまで近づき、理解し、対応していけるのかを考えると、なかなか具体的なプロジェクトにしていくのが難しく躊躇された。しかし電話相談において明らかに精神的問題に関わるものが毎年5~6%を占めている上、このほかにも頭が痛い、胃が痛い、耳鳴りがするなど体の不調を訴えているが実は精神的な問題が原因である場合もおそらくあるに違いない。心の悩みが精神障害となり、病状が深刻化した場合、言葉、文化、価値観の違いを埋めるのは更に困難となり、医療機関も対処できず困り果てているケースもある。また、心の問題を早期に解決することで身体的問題への予防を図るのは、医療を受けるときに言葉の壁や制度上の制限のある外国人にとっては特に重要だと思われた。以上のような観点から起案したこのプロジェクトでは、(1)こころの悩み電話相談、(2)ストレスマネージメント多言語情報提供の2つを行った。  「こころの悩み電話相談」において特にこだわったのは、ネイティブスピーカーが相談に対応するという点だった。相談者と同じ文化背景を持ち、母国語を話す相談員こそ共感を持って相談者に接することができると考えたからである。しかし、相談員はネイティブスピーカーであれば誰でもできるというわけではない。気軽なものであれ深刻なものであれ、心の問題に対峙することは、ある程度以上の知識と経験がなければ、相談者にとっても、また相談員自身にとっても危険な状態を招きかねない。この事業は、カウンセリングができる資質をもつネイティブスピーカーを得て初めてできたことだった。実はこの委託では、国の緊急雇用対策基金による新規雇用をすることが条件になっていた。前から、高い専門性をもつ外国人にその能力を活かして仕事をしてもらいたかった。しかも、その能力を正当に評価する意味で、ボランティアではなく有償で働いてもらいたかった。この大阪府との協働プロジェクトでは、2人の優秀な相談員に有償で働く機会を作れたのがありがたかった。  両言語とも週1回の対応で、相談総件数は123件(うちポルトガル語相談員対応:86件、スペイン語相談員対応:37件)であった。どちらも南米で使われている言語であり、ブラジル人はスペイン語を、又スペイン語圏の人でもポルトガル語をある程度理解できるため、言語について相互に乗り入れたような形で相談を受けていた。例えば、ブラジル人に「今日はスペイン語対応日だから来週電話してほしい」と伝えると、「来週まで待てない。スペイン語でもいいから今日話を聞いてほしい。」と言われた。こちらとしてはネイティブスピーカーが対応することにこだわっていたが、母国語で相談できることよりとにかく話を聞いてくれる人がほしいという部分も大きかったようだ。  相談内容は、単に「ある疾病名の日本語はどういうのか教えてほしい」というもの、体の変調を訴えるもの、仕事による健康障害など身体的・医学的問題に関わる相談から、セクシャルハラスメント、登校拒否、子育て、財政的なことなど生活の様々な場面でぶつかる問題など多岐にわたった。しかも表面に出てきている問題に、家族関係、雇用など違う側面の要素も複合的に絡んでいることも少なくなった。相談者の性別は女:男比が、7:5であった。女性の方が多かったのは平日の9時から17時に対応していたことが反映していると考えられる。123件中、カウンセリングを行ったのは47件。1回の電話で終わらない問題は繰り返し相談するよう相談員が促していたので、経過報告をするものも含めリピートコーラーも何名かいた。  このプロジェクトを企画する段階で、外国人が感じるストレスというのは日本社会との軋轢の中で生じるものが多いだろうと推測していた。しかし、相談全般を通じて、外国人としてのストレスもさることながら、個人の人間関係でのストレスがかなり強く感じられているという印象を持った。例えば「出稼ぎのため来日して、母国の家族は自分に多大の期待(特に経済的に)をしている。日本に来ている家族も自分に全く依存しきってしまっている。この期待や依存を非常に負担に感じているのに、誰にも声に出して訴えることができないでいる。」というのがあった。海外への出稼ぎという状況は、外国人に特有といえるかもしれない。しかし家族の過大な期待に悶々とする姿は日本人にも見られる。あるいは「来日したことで夫婦関係が壊れ、別の男性と再婚した。しかし元の夫との子供は新しい家族になじめず、そのことで今度は自分も体調を崩した。再婚した夫ともうまくいっていない。」「長い間つきあっている恋人がいるのに、浮気してしまった。恋人に対する罪の意識がぬぐいきれない。」といった家族の問題、夫婦(恋人同士)の問題も、国籍に関係なく起こりうる。青少年期の子供の登校拒否、薬物依存、妊娠について困惑し悩んでいる親からの相談もあった。子供から大人へと移り変わるちょうど不安定な年頃の少年少女は、この不確かな時代に将来に対して明るい展望を持てず苦しんでいるのではないかとよく思う。それが、言葉が通じず自分を異質なものとして見ていると感じられる学校や社会にいるのであれば、尚更つらいだろう。逃避することが正しいとは思えないが、さりとて彼らを若者らしく健康的に生活できるよう支援できるところがどのくらいあるのか。結局、こういった様々な問題を相談できるところ、すなわち外国語でも十分対応してもらえる社会資源が少ないということが、外国人にとって大きな障害となっているのだと強く感じた。  実績も出たし、こころの悩み電話相談は是非続ける必要があると考えているのだが、大阪府からの受託期間が終わっても継続できるようにと申請していたある助成が通らず、やむなく一旦打ち切ることになった。諦めないで、できるだけ早く再開するチャンスを得たいと思っている。  さて、プロジェクトの中でもうひとつ行ったのが、「ストレスマネージメント多言語情報提供」である。電話相談がメンタルヘルスの初期的・直接的対策であるのに対し、「ストレスマネージメント多言語情報提供」は予防的・間接的対策と捉えて行った。  ストレスマネージメントを外国人向けにするといいとアドバイスして下さったのは、ある精神病院の看護婦をしている傍ら、プライベートで外国人支援もしている方だった。ストレスという語はよく聞くが、本当にその意味を理解できている人は少ない。良いストレスはやる気を起こし身体にもいい影響を与えるが、悪いストレスは放置したり、誤った対策をとると病気の原因となる場合もあること、生活習慣病と呼ばれる病気の大半がストレスと密接な関係にあることなど、実はこのプロジェクトをするため勉強して初めて知った。自分のストレスがどのようなものであるかを知り、それにうまく対処していく方法を知るのは、安くて効果的な病気への予防となり、健康維持に有益である。しかし、外国人の健康問題をストレスという側面で捉え、情報を提供したものはこれまで見たことがなかった。  内容については、先に述べた看護婦さんの紹介で、大阪府立看護大学・大学院教授の山田冨美雄先生に協力をお願いした。また、大阪府立こころの健康総合センターストレス課課長(この4月より大阪府健康福祉部障害保健福祉室精神保健福祉課長)の野田哲朗先生にも監修をお願いすることにした。お二人は、すでにいろんなところでストレスに関するセミナーなどをされていて、そのときに使う資料を作っていらっしゃった。そこに書かれていることを元に、少しばかり外国人が利用することを考慮した部分もいれて原稿を作り、英語、スペイン語、ポルトガル語、韓国語、中国語、フィリピン語、ベトナム語、タイ語の8言語に翻訳し、これに日本語を含めた9言語で冊子(各言語ともA5版、22ページ)を作成した。また、冊子の配布だけでは普及に限界があると考え、インターネット上(当センターサイト、お役立ちページ)からダウンロードできるようにもした。是非、多くの方たちに読んでもらい、心身の健康を保つため役立ててほしいと思う。(URLは、 http://amda-imic.com/oldpage/amdact/PDF/jap/stress-j.pdf)  最後に、このプロジェクトを行うにあたって多くの方々のお世話になりました。お名前は明記しませんがこの場を借りて御礼を申し上げます。◆◆◆ *上記冊子をご希望の方は、センター関西(06-4395-0555)へお電話下さい。尚、数に限りがあること、送料をご負担頂くことはご了承下さい。

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