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オーバーステイの外国人と生活保護

 オーバーステイの韓国人女性が入院していると都内の病院の医療ソーシャルワーカーから電話が入りました。彼女は日本の公的保険に入っていません。5年前に日本人男性と結婚し、日本国籍を持つ子供がいますが、夫は病気ですでに他界。以前スナックを経営していましたが、今は無職で、その時の貯金は底をついており、医療費を支払える状態ではないとのこと。存命中に夫が妻の在留特別許可の申請をして2年になりますが、まだ在留資格は取得できていません。在留特別許可がおりるまでは、日本の公的保険に加入できないか、外国人の未払い医療費補填制度を利用するしかないか、との相談でした。

 このような相談を受けることは度々あります。ここでまず、現在の日本の医療保険制度についてまとめてみましょう。現状では、オーバーステイの外国人が日本の公的保険である国民健康保険と健康保険(いわゆる社会保険、以下「健康保険」)に加入することはかなり困難です。国民健康保険は、外国人登録をすませ、1年以上日本に滞在すると認められる外国人(入国当初認められた在留期間が1年未満であっても、何らかの書類により1年以上滞在すると認められる外国人を含む)に加入が許されており、オーバーステイの外国人はほとんどの場合加入できません。また、健康保険の加入条件は、基本的に日本人のそれとほぼ変わりませんが、本来日本での労働が許されるのは、就労可能な在留資格を持つ外国人です。(但し、健康保険に加入する際、在留資格を問われないので、結果として加入しているオーバーステイの外国人はいると思われます。)つまり、在留特別許可を申請中で無職の場合、対象となる公的保険は国民健康保険となりますが、在留特別許可が認められて在留資格が取得できるまでは、加入できないということになります。よって、それまでの医療費は、行旅病人及び行旅死亡人取扱法を利用するか、対象とならない場合は、分割での支払いを医療機関にお願いするなどして地道に支払ってゆくしかないのです。なおかつ、医療費が未収となり、対象となる場合は、医療機関が外国人の未払い医療費補填制度を利用することになります。

 さて、今回紹介したケースの場合、上記とはまた違った角度から考える必要があります。それは、お金が無いということです。何が違うのかというと、通常日本人からこのような相談を受けた場合、実際に支払い能力が無ければ、生活保護の対象となる可能性を考えて、福祉事務所へ相談・申請に行くよう助言することになり、彼女の場合もそれが考えられないかということです。ここで、外国人に対する生活保護の適用状況を歴史を追って説明したいと思います。1946年の旧生活保護法は、国籍条項がなく、保護が必要な外国人にも適用されていました。しかし、1950年の新生活保護法は、憲法25条を拠りどころとし、その対象は国民とされ、外国人は対象となっていません。そこで、1954年、厚生省より、日本国籍を離脱した在日韓国人・朝鮮人等、旧法で保護されていた対象者を保護し続けるため、(定住・非定住に係わらず)生活に困窮する外国人登録をしている外国人に一般国民に準じて生活保護を適用しても構わないとの通知(382号通知)が出されました。しかし、生活保護の予算抑制と非定住外国人(短期滞在及びオーバーステイの外国人等)の増加に伴い、1990年、厚生省より、生活保護対象外国人は定住者に限る、非定住外国人は、生活保護法の対象とならないと口頭で指示が出されたのです。本来は文書による変更通知が必要で、382号通知が存続するにも関わらず、この口頭で出された厚生省の見解に従い、全国の自治体はそれ以後、非定住外国人に対する生活保護の準用を行ってきませんでした。このような状況の中、1997年、熊本市の日本国籍を持つ子を扶養する在留特別許可申請中のオーバーステイの外国人の母(その世帯)に対して生活保護を準用することが可能か否かの照会に対して、厚生省は、1996年7月30日の法務省の通達(日本人の実子を扶養する外国人の親へ定住者ビザの取得を許可する旨の通達)に基づき、定住者の在留資格がほぼ確実に取得できるとして、生活保護を準用することが可能と回答しました。しかしその後、厚生省は、在留資格が切れる前に在留資格の取得の申請をしていれば、在留資格が無くても生活保護準用の協議対象とすると、その見解の変更を行ったのです。そして昨年東京都は、色々な現状を踏まえ、都として一定の見解を示す必要性が生じたとして、日本人の子、日本人に認知された子を養育している等、在留資格取得の可能性が高いと判断されること、在留資格の取得申請をしていること、または取得申請を準備していることという条件を満たす外国人に対して、例外的に生活保護を準用するという見解を示しました。

 さて、その後彼女がどうなったかというと、上記にある東京都の見解に則り生活保護が準用され、医療費は生活保護と、その申請前の分は外国人の未払い医療費補填制度で賄うことができたのです。今では無事退院して、在留資格も取得し、生活保護を受けながら日本で自立した生活を送っていく第一歩を踏み出したとのことです。

 最後に、現状としてはオーバーステイの外国人に対する生活保護の準用にあたり、各自治体でその見解はまだ統一されていません。日本で自立した生活を送ろうとしている外国人に不利益が生じないよう、今後ともその動向をしっかりと見守り、情報を提供して行きたいと思います。◆◆◆ (センター東京事務局S)


(AMDA国際医療情報センター NEWSLETTER NO.38より)

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