在日外国人は今

 20世紀最後の年、介護保険法や社会福祉増進のための社会福祉事業法等の一部を改正する等の法律(改正社会福祉法)が施行され、21世紀最初の年、医療保険制度の改正があり、近年日本の社会福祉は大きな転換期を迎えました。そのような中、外国人の医療福祉問題にも動きがありました。外国人に対する医療福祉制度適用に関して、国から一定の見解が文書で出されたのです。これまで外国人に対する医療保障政策は、通知や口頭通達が多く、各自治体へ徹底されていなかったり、オーバーステイの外国人への制度適用に関して、各自治体へ通達が出されるということはありませんでした。この文書は通達ではありませんが、ある外国人支援団体の働きかけによって、内閣に提出された質問主意書(国会会期中に国会議員より内閣に国政一般について質問をする文書であり、その回答は、文書でしなければならない。)に対する答弁書であり、閣議決定され、内閣総理大臣名で出された文書という点で、大きな意味のあるものとなりました。その答弁書(平成一二年五月二六日、内閣参質一四七第二六号、外国人の医療と福祉に関する質問に対する答弁書、内閣総理大臣森喜朗)とそれに対する当センターの解釈は以下の通りです。当センターの解釈は一民間団体によるものとお考え下さい。

  1. 入院助産
    保健上必要にもかかわらず、経済的な理由により入院分娩が困難な妊産婦を入院させ、出産に必要な処置を給付する。(答弁)
    ⇒緊急に入院助産を受けさせる必要があると認められる場合には、在留資格及び外国人登録の有無にかかわらず、適用可能。(解釈)

  2. 養育医療
    養育のために入院が必要と認められた未熟児に対し、入院養育に必要な医療を給付する。(答弁)
    ⇒医師が入院養育を必要と認めた場合には、在留資格の有無にかかわらず、適用可能。(解釈)

  3. 育成医療
    身体に障害のある18歳未満の児童に対し、生活能力を得るための手術等必要な医療を給付する。(答弁)
    ⇒緊急に手術等を行わなければ将来重度の障害を残すような場合には、在留資格の有無にかかわらず、適用可能。(解釈)

  4. 更正医療
    身体障害者手帳を持つ18歳以上の人に対し、自立等を促進するために、障害を軽くしたり、取り除いたりするのに必要な医療を給付する。
    ⇒「身体障害者福祉法の目的を踏まえれば、在留資格の無い不法滞在外国人は身体障害者福祉法の適用を受ける身体障害者としては想定されておらず、不法滞在外国人に対する当該給付も想定されていない」(答弁書通り)

  5. 妊娠の届出及び母子健康手帳の交付
    妊娠した者は市町村に妊娠の届出をして、市町村は妊娠の届出をした者に対して、母子健康手帳を交付しなければならない。(答弁)
    ⇒通常短期滞在と思われる外国人登録をしていない外国人は、妊娠の届出は必要ないが、外国人登録をしていない外国人が妊娠を届け出る先は、居住地の市町村が適当。そしてその当該市町村が母子健康手帳を交付する。(つまり、外国人登録の有無にかかわらず、母子健康手帳は交付される。)(解釈)

  6. 予防接種及び接種事故の対応
    市町村の区域内に居住する政令で定める者に対して、予防接種を行い、その接種を受けた者に対して、接種事故に対する救済を行う。(答弁)
    ⇒予防接種の対象となる居住者かどうかは、外国人登録等により判断している。また、その予防接種を受けた者に対して、接種事故に対する救済を行う。(解釈)


 つまりは、更正医療を除いて、その適用に際し在留資格の有無は問われていません。

 しかし、現実にはこれまで情報提供の際に、上記のような国の見解と各自治体の見解とのギャップを目の当たりにしてきました。在留資格が無ければ、入院助産を適用しないA市。外国人登録をしていなければ、母子健康手帳を交付しないB市。そして昨年、印象的なことがありました。「在留資格が無いため、公的保険に加入できない外国人夫婦の双子の未熟児の医療費を、両親が捻出できないので、何か救済する方法がないだろうか?」と知人や病院、国際交流協会、市役所国保課から相談の電話が入り、「養育医療が適用される可能性があるかもしれない。適用してもらえるかどうか、保健所に相談してみてはどうか。養育医療には国籍条件がなく、在留資格の有無は問われない。そして、単法で給付可能で、無保険の場合、全額公費負担になるとの厚生省の見解がある。」と伝えました。しかしその後、県庁か ら「厚生省の見解は把握しているが、県の見解としては、(保険が優先されるため)保険に加入していることが、養育医療を利用するための前提となる。公的保険に加入すれば、養育医療の適用を検討する。制度の適用にあたっては、その最終的な判断は各自治体に委ねられている。」と連絡があったのです。このように、窓口で無保険を理由に制度が適用されないという問題も度々おこります。(この問題に関しては、前記と同様に、質問主意書として追加質問されるとのこと。)センターより厚生省に確認したところ、「確かに養育医療は保険が優先され、医療保険の自己負担分が給付の対象となっているが、保険が無いと、この制度が使えないということではなく、無保険の場合、全額公費負担になる」との見解を得られました。

 このように、今現在も在日外国人は、このギャップの上に置かれています。そして、各自治体の最終的な判断により、外国人に対する制度適用が、良くも悪くも左右されてしまうという現実が存在しているのです。それゆえ、センターでは、国の見解のみをそのまま相談者に伝えるのではなく、各自治体の見解も求めて、それらの情報を提供しています。

 ところで昨年、東京都人権施策推進指針が発表されました。その施策は、「人間の存在や尊厳が脅かされることなく、自らを律する自立した個人が、権利行使に伴う責任を自覚し、共存と共感で相互に支え合う、都民が世界に誇れる東京づくり」を基本理念としています。もちろんこの人権には、在日外国人の人権も含まれているのです。そして、この人権問題や権利擁護への取り組みは、全国的な広がりを見せています。また、「行政が行政処分によりサービスの内容を決定する措置」から「利用者が事業者と対等な関係に基づきサービスを選択する契約」の時代へと移り変わろうとしており、今後サービスや情報を提供する側と利用する側双方が、これまで以上にそれぞれ責任をもって対応するよう求められて行くでしょう。

 今後も、在日外国人が置かれている現状を迅速に捉え、在日外国人へ伝えてゆくと共に、情報が無いがゆえに不利益が生じることなく、利用者を支えるサービス・制度を適切に選択できるよう情報提供して行きたいと思います。◆◆◆(センター東京事務局S)


(AMDA国際医療情報センター NEWSLETTER NO.35より)