不運なケース

 今年4月に東京郊外の救急病院に火傷で緊急入院した1才9ヶ月の男児のケースは本当に不運としか言い様がなかった。体の25%(頭、顔、胸など)を火傷し、入院した時はかなり危険な状態のようだった。その後状態が少し落ち着き、ヨーグルトなど流動食をとれるようになった。日系ペルー人の両親は、日本での仕事が終わり、事故の起きた日から1週間以内にペルーに帰る予定で、航空券も買ってあった。


 私はその日センターに着いたとたん、すぐ男児の父親から市役所の係との電話通訳を頼まれ、それまでセンターに何回かあった通訳の記録を頭に入れる余裕のないまま対応することになり、かなり緊張した。男児の父親は国民健康保険(以下国保)を持っているが1年近く掛け金を払っていない。家賃8万円をこれから払わなくてはならない。所持金は36万円。日本に親類はいるが、経済的に助けて貰うのは無理。病院のソーシャル・ワーカーから、医療費を国が援助してくれる制度があると言われたので確認したい、と言う。市役所に事情を説明し、2つの可能性があることが分かった。

 この2点を伝えたところ、今36万円しかない(病院からは治療費、入院費で100万円単位になると言われている)、航空券を換金しても足りない、自分の希望は息子を連れてペルーに帰ることだが、病院は最低2、3週間の入院のあと植皮手術が必要だとしている、と父親は比較的落ち着いて話しているが、やはり途方にくれている様子が伝わってきて、どうしたら良いのか分からないと言われ、相談員の私もなんとか元気付けようとしたが言葉がない。とにかく病院に戻って、もう1度ソーシャル・ワーカーと良く話し合い、わからないことや通訳が必要になったらこちらに電話して下さい、としか言えなかった。その後、何の連絡もない。相談員も人の子、相手に感情移入してはいけないが、せめて共感をもって話を聞くことの大切さを実感させられたケースだった。
(センター東京 スペイン語相談員S)◆ ◆ ◆


(AMDA国際医療情報センター NEWSLETTER NO.25より)